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  • サイバーセキュリティがポートフォリオを変えつつある
    Sep 12 2025
    サイバー犯罪が加速する中、サイバーセキュリティは底堅い投資機会として急成長しています。このような市場の変化の原動力となっている重要なトレンドについて弊社サイバーセキュリティ&ネットワーク関連機器担当アナリストのミータ・マーシャルが解説します。このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト 「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。本日はサイバーセキュリティ&ネットワーク関連機器担当アナリストのミータ・マーシャルが登壇し、サイバー犯罪に対するデジタル防衛の未来について解説します。このエピソードは9月12日 にニューヨークにて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。朝起きると、サイバー攻撃を受けて預金残高がゼロになっていた、業務運営がフリーズしていた、個人情報が漏洩していたと想像してみてください。サイバーセキュリティは今や一部の特別な人だけの問題ではありません。消費者であり投資家である我々すべてに影響が及びます。デジタル環境がますます複雑化する中で、サイバー犯罪の規模と深刻さは増しています。このことは企業が支出を増やしてもそれ以上の勢いでリスクが増えていることを意味します。投資家にとって、これは警告であり機会でもあります。サイバーセキュリティの市場規模は現在2,700億ドルです。弊社の予想では2028年まで年率12%のペースで拡大する見通しで、成長率はソフトウェアの中でトップクラスです。もうひとつ注目すべき数字があります。弊社がアンケート調査を実施した企業のCIOは、サイバーセキュリティ支出がソフトウェア支出全体を50%上回るペースで伸びると予想しています。これはサイバーセキュリティがIT予算の中で最もディフェンシブな領域であり、厳しい時期でも最も削減されにくいことを示しています。投資家はすでにこれに気づいています。セキュリティソフトウェア株は幅広い市場を上回るパフォーマンスを上げており、過去3年間のリターンはソフトウェア全体の22%を上回る58%で、NASDAQは79%でした。AIの登場によってハッカーの攻撃方法が増え、それらの脅威が進化する方向性も増えるため、セキュリティソフトウェア株がソフトウェア全般をアウトパフォームする状況は今後も続くと思われます。今後は相互に関係し合ったいくつかの非常に大きなテーマがサイバーセキュリティ株の投資機会を高めるものと考えます。中でも最大のテーマのひとつはプラットフォーム化、つまりセキュリティツールと統合プラットフォームの一体化です。大手企業は現在、平均で130もの異なるサイバーセキュリティツールを使用しています。ロボットやドローンのようなコネクテッドデバイスの登場により、統合セキュリティプラットフォームの重要性が今まで以上に増す中で、このようなやり方は分かりにくく複雑になりがちで、防御に重大な欠陥が生じる可能性があります。その他に考慮すべきこととして、セキュリティ投資はIT予算全体の6%を占めていますが、AI投資では全体の1%に過ぎないことが挙げられます。つまり、AIが業務運営で中心的な役割を果たすようになるにつれ、大きな成長余地があるといえます。今日のサイバーセキュリティ戦では、多くのツールを積み重ねたり、最新のバズワードを追うだけでは不十分です。弊社の見立てでは、カオス状態を分かりやすい状態に変えられるサイバーセキュリティ・プロバイダーが最大の勝者の一角を占めるでしょう。これらの企業は売上高とフリーキャッシュフローを増やすだけでなく、断片化した多数の防衛ツールを管理しやすい統合プラットフォームにまとめています。これらの企業は単に大きくなるだけでなく、賢さと迅速性と回復力を高めたいと考えています。そして、雑音を遮断し、システムを切れ目なく稼働させ、新たな脅威の出現に直ちに順応することが重要だと理解しています。サイバーセキュリティの領域では複雑さは害...
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    6 mins
  • 印中貿易の次の展開は?
    Sep 11 2025
    アジア担当チーフ・エコノミストのチェタン・アハヤが、変化し続けるインドと中国の貿易関係が、世界のサプライチェーンの見直しや新たな投資機会の発見につながる可能性についてお話します。このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト 「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。今回はアジア担当チーフ・エコノミストのチェタン・アハヤが、現代の最も重要な経済関係の一つであるインドと中国の関係、そして両国関係がこの先どうなるのかについて解説します。このエピソードは9月11日 に香港にて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。インドと中国の貿易ダイナミクスは急速に変化しています。このダイナミクスは両国自身の将来を方向付けているだけではありません。世界のサプライチェーンや投資の流れに影響を及ぼしています。インドの対中貿易は過去10年間で2倍近くに拡大しています。インドにとって中国は最大の貿易赤字国であり、対中貿易赤字は現在1,200億ドルに達しています。一方、中国のインドに対する貿易黒字は、全てのアジア諸国の中でも最大級の規模に膨らんでいます。経済的必要性ゆえにこうした両国の貿易関係はいっそう深まるでしょう。インドは技術的な専門知識や資本財、重要な構成品目の支援が必要です。中国は、新興国で2番目の経済規模と成長率を誇るインドにおける成長機会をうまく活用する必要があります。これらの問題について順番に考察してみましょう。インドは世界のバリューチェーンの一角に入り込む必要があります。そしてそのためには、中国からの直接投資が必要です。まさに中国が米国、欧州、日本、韓国からの直接投資によって技術や専門知識を取得し、経済大国にのし上がったのと同じような構図です。インドにとって、中国の対外直接投資の規制緩和はゲームチェンジャーになり、技術的なノウハウの移転や製造業の競争力強化につながる可能性があります。現在、中国は世界最大の製造業国です。世界のバリューチェーンの40%以上を占めており、これは米国の13%やインドのわずか4%を大幅に上回る規模です。世界の財の貿易は徐々に、半導体や電気自動車、電気自動車用バッテリー、ソーラーパネルなど、バリューチェーンの上流の製品が中心になってきています。そして中国は8つの主要製造業セクターのうち6つのセクターで世界1位の輸出国です。簡潔に言えば、世界のバリューチェーンへの関与を高めたい国はみな、中国との貿易を増やさなければならないでしょう。インドにとってこれは、資本財や自国の産業化に必要とされる重要な構成品目に対する需要が増える中、需要を満たすには中国からの輸入に頼らなければならないことを意味します。実際、こうしたことはすでに起きています。インドの中国および香港からの輸入の半分以上が資本財、すなわち、製造業やインフラ投資に必要な機械設備です。このほか輸入の3分の1を工業製品が占めており、インドが重要な構成品目の供給元として中国に依存していることが分かります。中国の観点からすると、インドは2番目に大きく、最も成長率の高い新興国市場です。米中貿易問題が続く中、中国は輸出市場の多様化を進めており、インドは大きな機会を見込める市場です。中国企業がこの成長機会を捉える一つの方法は、インドに投資して国内市場の需要に応えることです。中国の携帯電話会社はすでにこれを実行しており、これが他のセクターにも広がるかどうかはインドの市場開放次第となるでしょう。要するに、インドは製造業や技術における中国の強みをうまく活用できる一方で、中国は輸出先や投資先としてインドの巨大な市場を利用することができるのです。しかし、気を付けなければならないのは地政学的要因です。経済的必要性から貿易や投資の関係は深まると考えられますが、政治情勢によって進ちょくが遅くなる可能性があります。投資家はこの点...
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    6 mins
  • 金が市場で輝きを保つ理由
    Sep 10 2025
    金に対する強気見通しと、25年の金相場の上昇が示すインフレ、中央銀行、世界のリスク状況について金属・鉱業コモディティ・ストラテジストのエイミー・ガウアーが解説します。このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト 「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。今回は金が投資家にとって単なる安全資産にとどまらないことと、金が示す今の世界経済と市場の状況について、弊社金属・鉱業 コモディティ・ストラテジストのエイミー・ガウアーが解説します。このエピソードは9月9日 にロンドンにて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。金は不確実性の時代の投資先として常に選ばれてきました。ただ、2025年になって金の役割は進化しつつあります。投資家は金をインフレヘッジとしてだけでなく、中央銀行の金融政策から地政学リスクまで含めたあらゆる事柄を測るバロメーターとして捉えています。金相場の変動は、多くの場合、水面下で何か重要なことが起きているサインです。金は年初来で39%、銀は42%とどちらもすでに大幅に上昇しています。この上昇の背景には何があるのでしょうか。いくつかの要因が挙げられます。ひとつは、中央銀行が今年も大量購入を続けていることです。中銀の準備資産に占める金の比率は1996年以来初めて国債を上回りました。これは金の長期的価値に対する強い信認を示します。また、金に連動する上場投資信託(ETF)には8月だけでも50億ドルの資金が流入し、年初来の流入額は2020年を除いて過去最大に達しており、機関投資家の関心の高まりが改めて示されました。多くの主要国で目標値を上回るインフレが続く中、金は収益を生まない資産であるにも関わらず、驚くほど根強い魅力を保っています。そして投資家は中央銀行がまもなく利下げせざるを得ないだろう見ており、そうなれば金相場はさらに上昇する可能性があります。実際、弊社では年末までにさらにおよそ 約5%の上昇を予想し、史上最高値の1オンス3,800ドルに達すると見ています。ただし、考慮すべき重大な点がひとつあります。貴金属、とりわけ金は主にマクロ経済が不透明な時期のヘッジや安全資産とみなされますが、貴金属市場全体を見ると宝飾品がかなりの比率を占めています。金は需要の40%、銀は35%が宝飾品です。そして、宝飾品需要の見通しは現時点では不透明です。実のところ、宝飾品需要はすでに減速の兆しが見えています。第2四半期の金の宝飾品需要は2020年第3四半期以降で最低となりました。金価格が高騰し、消費者が購入を手控えたためです。ただ、それにもかかわらず金は1-4月に上昇した後の水準を保ち、銀は太陽光発電業界の旺盛な需要を受けて上昇し続けました。しかし、金と銀はどちらも最近までさらなる上昇の牽引役が不在でした。ただ、現在はこれが変わりつつあり、金と銀の両方がFRBの利下げから恩恵を受けると見られます。弊社エコノミストはFRBが9月の会合で利下げすると予想しており、利下げは2024年12月以来となります。1990年代を振り返ると、FRBが利下げサイクルを開始して最初の60日間に金は平均6%、銀は平均4%上昇しています。利下げによって収益を生まない資産の競争力が高まるためです。また、弊社の為替ストラテジストはドル安の進行を見込んでおり、したがってドル以外の通貨の保有者にとっては価格圧力が多少和らぐと思われます。インドの金・銀の輸入は7月にすでに改善の兆しが出ています。インドは物品・サービス税改革も予定しており、それによって祭礼・婚礼シーズン前に金銀を購買する余力が増す可能性があります。金はFRBの利下げ後にアウトパフォームする傾向があるため、弊社は引き続き銀よりも金を選好しますが、弊社の見通しは金銀ともに良好です。もちろん、貴金属は無リスクではありません。価格変動があり、もし中央銀行が予想外に利上げすれば、特に金は多少魅力を失う可能性があります。しかし...
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    7 mins
  • 新たな強気相場の始まりか?
    Sep 8 2025
    9月5日金曜日発表の非農業部門雇用者数は、米国経済がローリング・リセッションからローリング・リカバリーに移行しているとの見方を裏付ける内容でした。では、米国株は今後どうなるのか。弊社の最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジスト、マイク・ウィルソンが見通しをお話しします。このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト 「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。本日は、先日発表された雇用統計と、米国株にとってのその意味について、弊社の最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンがお話しします。このエピソードは9月8日 にニューヨークにて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。大いに注目されていた9月5日金曜日発表の非農業部門雇用者数は、労働市場は弱いという弊社の見立てを裏付ける内容でした。しかし、弊社は何ヵ月も前からこのことを論じており、株式市場にとっては言わば古いニュースです。第1に、ひょっとしたら雇用統計は最も後ろ向きな、つまり過去に目を向けている経済指標かもしれません。第2に、この統計は大幅に改定されることが特に多く、リアルタイムでは最新のデータが当てにならない傾向があります。全米経済研究所(NBER)が景気後退の始まりを宣言するころには、ほとんどの人が景気後退期にあることを意識しなくなっているのが普通であるのはそのためです。また過去の実績からは、非農業部門雇用者数の改定がプロシクリカルであることがうかがえます。景気後退に向かっている局面では下方修正の幅が大きくなりがちで、景気回復が始まれば上方修正の幅が大きくなりがちだという意味です。今回もこのパターンに沿っているように見えます。実際、金曜日の改定は前月のそれより大幅に良い内容であり、労働市場が第2四半期に「底を打った」ことを示唆しています。このことは、私が何年も前からお話ししている、景気と市場に対する弊社の基本的な説を裏書きしてくれます。 具体的に言えば、米国では2022年に「ローリング・リセッション」が始まり、今年4月の「解放の日」に相互関税が発表されたことをもってようやく底を打ったと私は考えています。このローリング・リセッションの初期段階は、新型コロナによるハイテク製品や消費財の需要前倒しの反動が主導する形で進みましたが、やがて他のセクターもそれぞれ異なるタイミングで不況に突入していきました。従来型のリセッションの判定に用いられる指標で典型的な変化が観察されなかったのに、今になってそれらの改定値で変化がより明確になっているのは、それが主な理由です。新型コロナ後に移民の流入が歴史的な大幅増になったことと、今年になってその取り締まりが行われていることも、労働市場の多くの指標をさらにゆがめることになりました。弊社はここ数年、こうした話題を広く取り上げてきましたが、金曜日に発表された弱い雇用統計は、米国経済がローリング・リセッションから「ローリング・リカバリー」に移行しつつあるという弊社の説を裏付ける証拠だと言えます。つまり、景気は新たな循環に入りつつあり、4月に始まった新しい強気相場が今後どこまで続くかについてはFRBの利下げがカギを握ることになるでしょう。弊社の見解で何よりも重要なのは、過去3年間の景気は多くの企業や消費者にとって、GDPや雇用のような総合的な経済統計が示唆するものよりはるかに弱かったということです。景気の強さを測る際には、消費者や企業の景況感調査に加え、企業の利益成長とその広がり方に着目する方がよいと弊社ではみています。ひょっとしたら、景気の良し悪しを判断する最もシンプルな方法は、今の景気は幅広い層に繁栄をもたらしているのかと問うことかもしれません。この物差しに照らして言うなら、答えは「ノー」だと弊社では考えます。ここ3年間はほとんどの企業で利益がマイナス成長...
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    7 mins
  • FRBの利下げはクレジットの質に影響するか?
    Aug 27 2025
    コーポレート・クレジット・リサーチ責任者のアンドリュー・シーツが、FRBが金融緩和を開始した場合にクレジット市場への懸念が生じかねない理由についてお話します。このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト 「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。今回は、コーポレート・クレジット・リサーチ責任者のアンドリュー・シーツが、FRBの利下げを受けて、企業が積極的な姿勢を強める可能性について解説します。このエピソードは8月27日 にロンドンにて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。先週、FRBのジェローム・パウエル議長は、次の会合で利下げを行う見通しであることを強く示唆しました。利下げ判断は市場が予想していたものですが、決して既定路線ではありませんでした。FRBは失業率とインフレ率を低く抑えるという責務を負っています。米国の失業率は低いですが、インフレ率はFRBの目標水準を上回っているだけでなく、最近の傾向では目標とは逆の方向に向かっています。インフレ率を引き下げるには、FRBは利下げではなく利上げを行うのが一般的と言えます。しかし、今回予想されるFRBの政策措置は利上げではありません。雇用市場が近く悪化する可能性がある一方で、こうしたインフレ圧力は一時的なものにすぎない、という重要な確信を抱いているとみられるからです。FRBは通常とは異なる難しい状況に置かれており、現在FRBの周りで起きていることが状況をさらに異例なものにしています。 ご承知の通り、FRBは経済が過熱せず、冷めすぎてもいない、均衡状態を維持しようとしています。そしてこの点に関しては、金利が蛇口の栓のような役割を果たします。しかし、金利の他にも、経済の水の温度に影響を与える要因は複数あります。資金の借り入れがどの程度、容易か? 通貨の価値は上昇しているか、下落しているか? エネルギー価格は高いか、低いか? 株式市場は上昇しているか、下落しているか? しばしば、これらの尺度はまとめて金融情勢と称されます。従って、インフレ率が目標を上回り、しかも上昇している一方で、FRBが金利を引き下げるのは珍しいことですが、経済活動を左右するこれらの金利以外の要因、つまり金融情勢がこれほど緩和的なものである中で、FRBが利下げするのは、恐らく、さらに異例なことと言えるでしょう。株価のバリュエーションは高く、クレジットスプレッドはタイトで、エネルギー価格は低く、為替はドル安の状況にあります。債券利回りは低下しており、米国政府は多額の財政赤字を抱えています。これらは全て、経済を加熱させがちな要因です。流し台にお湯を継ぎ足しているようなものです。金利を引き下げれば、経済の温度はさらに上昇する可能性があります。クレジット市場にとって、これは少々厄介なことです。クレジット市場特有の、2つの理由が挙げられます。クレジット市場は現在、素晴らしい1年のさなかにあります。そして、企業は総じて、かなり保守的な姿勢を維持し、合併案件は少なく、企業の借り入れ額は通常比較対象とされる政府ほど多くない、といったことが好調の一因です。こうした節度は全て、クレジット市場にとって大きなプラス材料となります。しかし、先ほどお話した状況は、企業が節度を緩める原因となりそうです。すでに緩和的な金融情勢を、FRBがさらに緩和することになれば、企業は実際、繁栄を謳歌したいという気持ちを、いつまで抑えることができるでしょうか? 最近、合併が再び増え始めています。また、従来、このように企業の積極姿勢が強まると、株主にとってプラスとなる可能性があります。一方、貸し手にとっては、往々にして厳しさが増します。とは言え、他の追い風要因がこれだけあるにもかかわらず、米国の雇用市場は実際のところ、さらに悪化する見通しであるというFRBの警告が正しい可能性もあります。この見立てが正しければ、これも企業が節度を緩...
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    7 mins
  • FRBの方向転換に株価はどう反応するか
    Aug 25 2025
    先週のジャクソンホール会議におけるFRBのパウエル議長の発言が、9月にも利下げが実施される可能性を残す内容だったことから、市場の専門家は活発に意見を交わしています。弊社の最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンが、米国株式に対する引き続き強気な見通しについて説明します。このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト 「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。今回は、最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンが、FRBが発信した政策に関する新たなシグナルと、それが株価にとって意味するものについて解説します。このエピソードは8月25日 にニューヨークにて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。数ヵ月前から市場は、FRBが秋に、よりハト派的な姿勢に転じると予想するようになりました。より具体的には、FRBが9月に再び利下げを開始する公算が大きいことを、債券市場が織り込み始めました。関税、国際紛争およびバリュエーションに関する懸念が残っているにもかかわらず、株式市場は、こうした債券市場のシグナルを手がかりに、夏の大半の期間において、上昇しました。過去に比べて堅調な業績予想修正に弊社は注目しており、さらに、依然として時期は不透明だとしても、FRBの次の一手は利下げになるとの見解を念頭に、我々は同じ期間、強気スタンスを維持してきました。FRBが毎年ジャクソンホールで開催する経済シンポジウムが、先日、開催されました。FRBは通常、目先の政策意図や、戦略的な政策の枠組みにおけるより広範な判断について説明します。今回の重要なポイントは以下の2点です。第1に、前回パウエル議長が公に話した時に比べて、FRBが9月に利下げする見込みは強まったように見えます。この変化が起こる1週間前には、市場が既に理解しているものがインフレ指標によって確認されるまで、パウエル議長がよりタカ派的な姿勢を維持するのか、市場は決めかねていました。明らかにパウエル議長はハト派寄りに傾きました。そして、金曜午前中のパウエル議長の講演を前に市場はやや神経質に推移していたため、株価は取引終了までに大幅に上昇しました。第2に、FRBは、今後はインフレ率の目標を平均で2%とはしないことも示唆しました。今後は、常時2%が目標になります。これは、2021-22年にFRBが行ったように、平均で目標を達成するために、目標を上回る水準や下回る水準を容認しないことを意味します。同時に、現在予想されているよりも力強く景気が回復するか、またはインフレが再加速した場合は、FRBがよりタカ派的な姿勢をとることも示唆しています。筆者の視点からは、これは今後数週間の株価にとって強気な要因で、現在、市場は9月の利下げを完全に分織り込むことができます。ただし、S&P 500が以前から我々が維持している目標の6500ポイントに近付くに伴い、9月と10月は考慮に値するリスクがいくつかあります。第1は、経済成長の上振れまたは予想より高いインフレのいずれかを理由に、FRBが利下げを行わないと判断するリスクです。その場合、現在、高い確率で利下げが実施されることが織り込まれているため、株価に若干の調整が入ると見られます。第2のリスクは、FRBは利下げを行うものの、債券市場が、これまでインフレに対して全く無防備だったと判断し、中長期債の利回りが急上昇するリスクです。10年物米国債利回りが急上昇すると、米国債とFRBが再び主導権を取り戻すまで、株価に、より大幅な調整が入ると見られます。ここで重要なメッセージをお伝えしたいと思います。大規模な弱気相場は4月に終わり、新たな強気相場が始まりました。新たな強気相場が4ヵ月しか続かないことは稀で、少なくとも1年から2年は続くと見られます。したがって、この秋に押し目があれば、中長期投資にとっては買いの好機となるでしょう。こうした弊社見解への確信をさらに後押...
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    7 mins
  • クレジットスプレッドが縮小している時期に気を付けること
    Aug 22 2025
    クレジットスプレッドが20年以上見られなかった水準にまで縮小しています。企業セクターが健全であることを示唆する現象ですが、弊社コーポレート・クレジット・リサーチ責任者のアンドリュー・シーツは、投資家が今後気を付けて見ていく要因が2つあると指摘しています。このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト 「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。本日は、クレジットスプレッドが20数年ぶりの水準に縮小していることをどう解釈すべきなのか、この状況に変化をもたらし得るものは何かという2点について、弊社コーポレート・クレジット・リサーチ責任者のアンドリュー・シーツがお話しします。このエピソードは8月22日 にロンドンにて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。投資家が企業にお金を貸すときに得る利回りは、政府にお金を貸すときの利回りよりも高くなります。この差のことをクレジットスプレッドと言います。そのような差が利回りに生じるのは、リスクが異なると認識されているからです。そして債券投資家は、この差は本来どうあるべきなのかを考え、議論し、取引することに長い時間を費やします。クレジットスプレッドは、当該企業の格付けが引き下げられると拡大します。またその拡大の幅は、満期までの期間が長い債券の方が、短い債券よりも大きくなるのが普通です。投資家がクレジットに投資するのは、国債利回りに上乗せされているクレジットスプレッドの一部をあわよくば手に入れたい、それも、追加リスクをさほど負わずにそうしたいと考えるからです。ところが今日(こんにち)の市場では、このクレジットスプレッドが非常に小さく――相場用語で言えば「タイト」に――なっています。米国では、投資適格の社債を購入しても、年限の同じ米国債よりおよそ約4分の3%、つまり75ベーシスポイント高い利回りしか受け取れないのが実情です。欧州でも、最も安全と言われるドイツ国債と欧州企業の社債との利回りの差は同じくらい小さくなっています。クレジットスプレッドがここまで小さくなるのは、米国では1998年以来、欧州では2007年以来のことです 。では、果たして何が起きたらこの状況は変わると考えられるでしょうか。投資のバリュエーションについて考える1つの方法は、――そして、スプレッドは間違いなくバリュエーションの指標の1つだと言えますが――長期間にわたり持続した前例がひとつも見当たらないくらい極端な水準か否か、という観点があげられます。ただクレジットの場合、この議論は厄介です。スプレッドが今の水準よりの低かった時期は何度かありました。米国では1990年代の半ば、欧州では2000年代の半ばにそれぞれ観察されており、いずれも何年か続いていたのです。それにもっと昔、それこそ1950年代まで振り返ってみると、米国のクレジットスプレッドはさらに低かったようなのです。スプレッドはリスク・プレミアムの指標でもありますが、リスク・プレミアムについて考えるもう一つの方法は、自分が取った超過リスクに見合っているか自問することです。この場合も、スプレッドが非常に小さいため厄介です。社債に投資してもわずか4分の3%つまり75ベーシスポイントの超過リターンしか得られないというのは、時折相場に目を通すだけの人にとっても、このポッドキャストを聞いてくださっている経験豊富な社債投資のプロの方にとっても、何だかスズメの涙のように思われます。しかし弊社が過去のデータを分析したところ、投資適格の社債にそれなりに長い期間投資したときの超過損失、すなわち同じ時期の国債投資による損失を上回る損失は、実はさきほど述べた、4分の3%のおよそ半分であることが分かりました。そしてこの関係は、比較的長い期間続いているのです。それに、スプレッドが過去の基準に照らして非常に小さい時期でも、極端なバリュエーションがすぐに修正...
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  • 強弱材料入り混じるデータを受け、FRBは次にどう動くか
    Aug 20 2025
    7月の雇用統計とCPIが強弱材料が混在する内容だったことを踏まえ、市場はすでにFRBの利下げを織り込み済みです。グローバルエコノミストのアルニマ・シンハーが、利下げに向けたハードルが上がったという弊社の基本ケースを維持する理由について解説します。このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト 「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。本日はグローバルエコノミストのアルニマ・シンハーが、7月のCPI発表後のFRBの政策路線や、他の中央銀行に与えるより広範囲な影響について弊社の見解をお話します。このエピソードは8月20日 にニューヨークにて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。弊社の基本ケースは、FRBが年内、政策金利を据え置くというもので、先週発表されたCPIはこの見解を変えるものではありませんでした。以前指摘したように、関税措置の実施の遅れに伴い、平均の関税率はなおも上昇しているため、物価への累積的な影響はさらに遅れる可能性があります。CPI統計では、アパレルと自動車を除き、関税の影響を受けやすい財の価格は7月も上昇しました。予想外だったのはサービス部門で、今年の大半においてデフレ傾向だった航空運賃やホテル料金が上昇したことが主因となり、サービス価格の上昇が再び加速しました。関税の影響で夏の間にインフレが加速するという弊社の見解に反する要点の中には、サービス部門のディスインフレが相殺する可能性があるとの見方もありました。しかし、今回の発表で明らかになったように、その可能性はなさそうです。サービスインフレは今後も減速すると予想していますが、2025年前半に見られたサービス部門のディスインフレは、基調の弱さや値動きの激しさによって誇張されていたと考えており、コアCPIとコアPCEの上昇率はいずれもまだ去年 昨年とほぼ同じ水準で推移しています。 このため、夏の間に関税の影響で財のインフレがさらに加速することで、インフレ率はFRBの目標を大幅に上回る水準にとどまるでしょう。7月の雇用統計とCPIの発表を受け、9月の金利据え置きに向けたバードルが上がったのは明らかです。では、弊社の基本シナリオに対するリスクは何でしょうか。 9月の会合までの間にデータに対するFRBの金融政策反応関数がどう展開するか、というポイントに立ち返ります。8月の雇用統計が重要となるでしょう。雇用者数の伸びが前月比で加速し、失業率が4.2%から4.3%前後になるなど、雇用統計が堅調な内容であれば、FRBは5月と6月の雇用統計の弱さについて、相互関税導入が発表された「解放の日」以降の不確実性が減速の原因であり、基本的な傾向を表すものではないとしておそらく目をつぶるでしょう。しかし、雇用ペースが大幅に鈍化すれば、FRBは労働市場は予想していたよりもはるかに弱いと判断し、緩和を再開する可能性があります。リスク管理の観点から利下げを行う可能性もあります。ただ現時点では、JOLTSと呼ばれる求人労働異動調査や新規失業保険申請件数などの、他の雇用市場指標では雇用の大幅減速は示されていません。インフレ率が目標をはるかに上回る水準で推移していても、FRBは7月の雇用統計を、労働市場へのダウンサイドリスクを示す明らかな兆候と捉え、緩和サイクルを開始する可能性があります。FRB関係者らのメッセージはこれまでのところまちまちで、雇用統計を警鐘と受け止める関係者もいれば、失業率はなおも低いとしてそれほど懸念を示さない関係者もいます。米国外では、各国中銀の政策軌道は引き続きFRBの道筋や、刻々と変わる米国の成長見通しに密接に結びついています。先般の雇用市場データは、ECBと日銀についての弊社シナリオにダウンサイドリスクをもたらしました。欧州では、ユーロ高が続き、米国のリセッションリスクが高まれば、弊社の欧州担当エコノミストは、9月の緩和路線を予想する基本ケースに対するリスクが減少...
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    7 mins